リミニ、チェゼーナ

 朝食こみの予約をしてあったので、朝、-1階の部屋へ。この地方の名産だというハム類、チーズ、パンなど。いずれも複数種類が用意されている。クロワッサンも色々な種類のものがある。オレンジ、モモ、スモモ(?)のジュース、それにコーヒーなど。 コーヒーは「カッフェ・アメリカーナ」とされているが、別に薄口であるわけではない。エスプレッソやカプチーノなど以外はみな「アメリカン」なのかもしれない。ウェイターがいて、カプチーノはいかがかと聞いてくるので、一つ頼む。卵料理がないのが残念だが、後で聞いたら、キッチンがないからだという。

食後、駅まで歩き、窓口で列車のチケットを買う。ここも英語でOK。リミニまでは1時間ほどだという。チケットをまた緑の機械で打刻して、間もなくやってきた列車に乗ると、ボローニャからラヴェンナまでの列車と同じように、小さな町に止まりながら、列車はゆっくりと進んでいく。市街地を走る時は速度を落としながら進むらしく、かなりのろい。海が近いせいか、背の高い葦のような草が生えているところを通ったりもする。ボローニャラヴェンナ間と同じように、広大な畑の一角にひなびた家が一軒ぽつねんと建っているというような景色が続く。リミニが近づくにつれ、次第にホテルや別荘風の建物が増えてくる。まもなく海も見えてくる。

駅の前にインフォメーション・センターがあったので、そこへ立ち寄って道を聞く。テンピオ・マラテスティアーノまではセンター前の道をほぼ一直線とのこと。地図をもらって早速歩き出す。ここは海に面したリゾート地なので、夏のシーズン時にはもっと人が多いのだろう。今日はそれほどでもないが、観光客もそれなりにいる。規模は違うが、どことなくラパッロを思わせるような街並みである。しばらく歩くと、道の左側に白い大きな建物があり、これがテンピオ。これまで写真で何度か見ているが、どうにも実物の大きさがつかめなかった。そこで、今回、実際に訪れて様子を見るとともに、レリーフなどの記録をとることにした次第。(学会でイタリアへは何回か来ているので、そのついでに寄ればよかったのだが、通常エクスカーションは別にあるし、そもそもそのエクスカーションに参加する時間をとることもできない。)今回見て思ったが、やはり大きな建物である。正面入り口から中に入り、ストークの本も参考にしてレリーフをはじめとする装飾を一つずつ確認していく。写真も撮ってみるが、デジカメや iPad では太刀打ちできず。そもそも、高いところにあるレリーフは、三脚でもなければうまく撮ることはできまい。イタリア人の高校生らしきグループが来ていて、先生らしき人のレクチャーを聞いている。ほかに家族連れらしい観光客が何組か。

昼になると、長い休みに入るので、作業は午前で切り上げて、昼食。街の中心にある広場の観光客向けの店に入り、ピザ。別のテーブルでは、正装して月桂冠を被った人たちが、家族や友人たちとお祝いらしきことをしている。店の人に聞くと、どうも卒業試験(卒論の口述?)に合格したことを祝っているらしい。そうした学生が何人も広場を横切っていく。中には中国人あるいは中国系と思われる人たちもいる。どこかで祝賀の催しもあるのだろうか。店のほかの客はドイツ人の観光客らしかった。このあたりの古い歴史のことを考えると、ドイツとイタリアの間には、ふだんこちらが考えているよりも強い親近感があるのかもしれない、といった無責任なことを思う。リミニは映画監督のフェリーニが生まれた街でもある。店の人に、もしかして、ここが『アマルコルド』の広場ですかと聞くと、そうだという。花は舞っていないので、季節が微妙に違うのか? フェリーニ博物館もあるようだが、今回は時間の都合で訪問せず。

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食後、再び駅まで歩き、チケットを買って、今度はリミニ近郊の町チェゼーナへ。駅のインフォメーションで、道を聞けば簡単に目的地に行けると甘い考えを抱いていたが、駅前にインフォメーション・センターなどない。バス・ターミナルの周りに、どことなく近寄りがたい高校生たちがいるばかり。しかし、ほかに手はないので、彼らにがんばってイタリア語で話しかけ、ビブリオテカ・マラテスティアーナという図書館へはどうやって行くのかを聞くが、多くは、自分はここの土地の人間ではないから知らないと答えるばかり。通りかかった大人に聞いてもまったく同じ答え。仕方がないので、駅の切符売り場で尋ねると、やはり、自分はここの人間ではないのでわからないが、広場の突き当たりにバスのチケットを売っているところがあるので、そこで聞けという。そこへ行って聞いたら、地図を取り出して、英語とイタリア語で懇切丁寧に行き方を教えてくれた。

指示に従って歩き出す。最初はいくぶん落ち着かぬ界隈だったが、次第に街らしくなってきて、さらに歩くと、店の並ぶ通りになった。まもなく図書館の案内標識が出たので、そちらへ向かってさらに歩いていくと、少し開けたところに大きな建物があり、そこに図書館が入っていた。受付で聞くと、それを聞いていた顧客とおぼしき女性が、イタリア語で案内を買って出てくれて、古い図書館の入り口まで連れて行ってくれた。そこで、英語のよくできる若い女性が彼女に代わり、すでに始まっているツアーに合流させてくれた。ツアーはイタリア語だったが、参加者の一人がときおり英語で内容を説明してくれた。皆さん、とても親切である。(あとで思ったが、ここでサッカーをやっていた長友選手が日本人もしくはそれらしき人への好印象の素地を作ってくれているのかもしれない。)この図書館はマラテスタ・ノヴェッロ(リミニのテンピオの建造を命じたシジスモンドの弟)が修道院内に作ったもの。ユネスコの「世界記憶遺産」にも選ばれ、現在は博物館として公開されている。EP 絡みでは、1925年に彼が寄贈した『詩編』(彼のメモつき)があるはず。時間があったら、それを見せてもらおうと思ったが(そもそも、この図書館を訪ねる時間があるかどうかもわからなかった)、やはり少し時間がいるので無理だとのこと。『詩編』について調べてもらっている間に、図書館員の人とあれこれ話をしたが、この図書館の古い部分以外は、現在も公共図書館としての機能を果たしており、多くの人々が利用しているという。この地方の人は他の地方の人よりも多くの本を読むということもあるのかと聞いてみると、それはそう思うということだった。公共図書館としての歴史や現在の運営の仕方など、その領域の専門の人が話を聞いたら参考になるのではないか。

図書館についての資料を購入し、ふたたびもと来た道を歩いて駅へ。ラヴェンナ行きの切符を買う。そのときは気づいていなかったが、カステロ・ボロネーゼという駅で乗り換えだった。列車が止まり、客も全員降りてしまったので、変だなと思い、駅員に確かめたので、次の列車に乗り遅れずにすんだ。やはりイタリア語をもっと勉強しないと危ない。ラヴェンナに着くと、もうずいぶん遅くなっていたが、町の中心部まで歩いて行って、空いているレストランでリゾット。花売りが3人もやってきて閉口した。きっと店主が優しい人なのであろう。