ダブリン着

目を覚ますと着陸まであと4時間だという。着陸まで後3時間になったところで朝食が出るというので、そうかと思いながら持ってきた本で現地の予習をしていたら、たしかにその通りになった。和食か洋食のどちらかを選べと言うので、和食を選ぶ。枝豆ご飯と味噌汁、野菜その他、スイカデザート付きと書くとさえないが、朝食としては悪くない。しかし、いつもながら、狭いテーブルの上に容器がかさばって落ち着かない。松花堂弁当のようなスタイルにしたらどうかと思うのだが、外国人客に不評なのだろうか。まもなく、シャルルドゴール空港着。この空港も久しぶり。何年か前にここへ来たときは、トランジットの前に、この空港で入国審査があったように思うが、今回はなかった。ただし、セキュリティ・チェックは入念で、ベルトと靴も脱がされた。(しかし、今思い出してみれば、セキュリティ・チェックは羽田の方がさらに厳重で、バックパックの中身を全部外に出すことになった。)トランジットの間、待合室でパソコン入力をしながら、ボーディングが始まるのを待つが、次第にバッテリーの残量が減ってきた。電源を使わせてもらえるサービスはないかと思ったが、見つけられず、途中で作業をあきらめる。予備のバッテリーを持ってきていると、こういうときには便利だろうが、荷物が重くなるのは困る。

まもなくボーディング開始。今度は飛行機の最後尾の座席。小さな飛行機だが、ヨーロッパのハブからの乗り換え便にはよくあることだと思うし、このぐらいのサイズの飛行機の機内は嫌いではない。たしか、ラパッロの学会の時もそうだった。機内後方の座席の世話をする背の高い、モデルさんのようなフライトアテンダントが親切で、エールフランスの株が上がる。と思ったのもつかの間、この飛行機もなかなか離陸しない。ようやく飛んだと思ったら、機長のアナウンスがあり、ロンドン周辺のレーダーシステムに故障が生じ、フライトを継続できないので、いったんシャルルドゴールへ引き返すという。その言葉通り、飛行機は大きく旋回して、パリに戻り、乗客は飛行機の中でレーダーシステムが復旧するのを待つ。しばらくしたら復旧したらしく、再び離陸。今度は何の問題もなく、飛行機は大陸の上を飛んでいく。しばらくすると海岸に出て、海の上を飛んだかと思うと、すぐにまた陸が見え、それからまたしばらくすると再び海岸に出る。正確にどこを飛んでいるかはわからなかったが、グレートブリテン島を横切って、アイリッシュ海に出たのだろうと思う。今度もすぐに陸になり、緑の牧草地らしきものが見えてきて、その四辺形の緑の連なりをしばらく眺めていると、だんだん陸が近くなってきて、無事着陸。天気もよく、気持ちのよいフライトだった。

ダブリン国際空港はこじんまりした空港のように思われた。同じ時間に到着する便が少ないのか、入国審査の行列も短い。その審査ものんびりしたもので、ジョークをまじえて、あれこれ話してから、入国を認めることにしているらしい。荷物をピックアップして、タクシーを捕まえて、学会会場のトリニティ・コレッジ・ダブリンのすぐ裏手にあるホテルへ。

羽田経由の夜行便を使ったせいで、到着時間がはやい。学会(国際エズラ・パウンド学会)そのものは水曜からだが、今日は午前と午後に大学内のツアーとダブリン市内のEP関連ツアーがある。時間的に間に合わないだろうと思ったので、予約はしておかなかったが、4時からのツアーには間に合いそうだったので、待ち合わせ場所に行ってみる。しかし、愚かなことに、時計を合わせ損ねて時間を間違え、また、待ち合わせ場所も間違えていて、結局ツアーには合流できず。仕方がないので、大学周辺を歩いてみると、おびただしい数の観光客がそぞろ歩いている。夏のダブリンがパリやローマを思わせるバカンス都市であることを知る。グラフトン・ストリートには、歌を歌う人、ギターを演奏する人、フルートを弾く人、夏の観光地でよく見かける、面をかぶって、銅像の振りをしたままじっと立っている人たちがいて、楽しい。若者たちが、それらのパフォーマーたちの前に集まっている。陽差しは強く、なかなか日没にならないので、遅くまで騒々しい。無数と言いたくなるほどのパブがあり、グラス片手の若者や年輩の人たちが店の外にあふれ出して、飲んでいる。ふだんはスペインへ行くような人たちが、景気の関係で、今年は行き先を変え、ダブリンまで大挙してやってきたのか、それとも、毎年、夏はこうした賑やかな観光の街になるのか、よくわからなかったが、結構なことである。若者たちの中にはサマースクールに来ているとおぼしき外国人も多いようだった。日本で同じようなサマースクールを開くと、こうした街に対抗して学生獲得をしなければならないのだろう、といったことも考えながら、タイ・オーキッドという店で夕食をとり(美味かつ量の多い店だった)、さらに歩いて、ホテルに戻る。夜になって気づいたが、ホテルは消防署と同じ建物のなかに入っていて、出動時には、サイレンの音が聞こえるし、また、訓練の一環なのか、暇なのか、夜になると、署員がバレーボールに興じる声が聞こえてくる。窓を閉めればいいのだが、今年は1987年(?)以来の異例の暑さだそうで、窓を開けざるを得ない(冷房がない)。バスタブもあり、快適なホテルだが、夜は消防士の皆さんと心をひとつにすることになった。

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アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書)

アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書)

飛行機の中で前半部に目を通して予習。