杭州まで

firecat2010-06-03

結局1時間半ほどしか眠れず、タクシーで金山へ、金山から名鉄中部国際空港まで。前の座席にプロレスラー風の外国人が座っており、後から来たおばちゃんがこちらと席を替わってほしそうである。空港で「ゲゲゲ」を見た後、飛行機に乗る。離陸とともに眠りこけるが、朝食が出て、目がさめる。ほとんど身動きのとれぬほど狭い二人掛け窓側の席だったが、瀬戸内海が真下に見える。船の航跡が美しく、時間の空間化のことをぼんやりと考える。養殖の仕掛けのようなものも見える。何本かの川で区切られた島は、薄くのばして切れ目を入れたパン生地のように見える。浅いせいだろうか、湾の内側はアクアマリンのようにひときわ青い。上空から見える俯瞰図に地名が入っているわけではないが、液晶スクリーンの情報によれば、瀬戸内海に沿って西に進み、広島を過ぎ、福岡を過ぎ、長崎を過ぎたあたりで、少し方向転換。それから後はまっすぐという航路らしい。しばらくうとうとして、目を覚ますと、あと15分で着陸だという。窓からは雲しか見えない。ときどき雲が切れて、下界が見える。茶もしくは赤茶色の海に息をのむ。黄海の謂われか。まもなく陸地が見えてくる。タピエスの抽象画のような畑。風力発電用の風車。ぐるっと迂回して着陸態勢に入る。

無事着陸。入国審査は、アメリカと同じように、ここでもカメラに向かう。小さなスクリーンにパスポートの顔と今の顔が並び、同一かどうかが確認されるらしい。指紋チェックはない。パスポートの顔はずいぶん疲れているが、横に並んだ今の顔も大差ない。スーツケースをピックアップして、成田から到着される予定の同業のO先生との待ち合わせ場所へ(写真)。空港内には英語の指示も行き届いており、トラブルなし。パリの空港と同じように、すぐ外で喫煙できるようになっていて、日本のように喫煙者を犯罪者扱いする雰囲気はない。外に出ると、思ったよりも涼しい。湿気を含んだ風に吹かれるのは気持ちがいいが、シャツ1枚では少し寒い。しばらくしてO先生と落ち合い、第1ターミナルの2階から階段を下りて、長距離バスの切符売り場へ。万博もあって、外国人観光客を対象としたサービスの充実に努めているのだろうか、案内の人が何人か立っていて、向こうから杭州かと聞いてくる。中国語はまるでわからず、英語もほとんど通じないが、なんとかチケットを買ってバスに乗る。運賃は100元。一人日本人の客がいて、ガムを頂戴する。そうこうするうちに出発。途中、市内の虹橋空港前に寄って、運転手交代。新しい客も乗ってくる。再度出発して、バスはハイウェイを猛スピードで進む。窓の外には、巨大マンション群など。いろいろな国の車が走っている。99年に北京に来たときは、フォルクスワーゲンのタクシーが多かった。今回もフォルクスワーゲンは多いが、アウディとかBMWなどの高級車も多い。日本車はあまり目立たない。車内では、ときおり、中国の演歌かと思わせるような歌がけたたましい音量で流れる。最初は BGM かと思ったが、客のケータイが着信したのであった。その客がでかい声で話し始める。中国人は騒音に対して寛容であるらしく、皆さんじっと会話を聞いている。

3時間走って、杭州市内に到着。降りると、すかさずタクシーはどうかね、と白タクの客引きらしき男たちが寄ってくる。怪しいので、彼らを避け、自力でタクシーを拾おうとするが、こちらの行き先を紙に書いて見せても、乗せてくれない。どうも仕事の区域が割り当てられていて、そこを越える地域まで客を乗せていくことができないような印象。道行く人の中から学生風の若い人を捕まえて、英語を話すかと聞いてみると、とんでもないという表情をする。顔つきはうちの学生に似ているので、先生に道を教えるぐらいできるだろう、と錯覚するのだが、現実は厳しい。ともかく困ったので、まずは近くにあるハイアットまでタクシーで行き、そこなら英語が通じるだろうから、西湖の西まで行ってくれるタクシーを呼んでもらおうということになったのだが、ちょうどそのとき、ほかのタクシーとは色も形も違うタクシーが止まってくれて、ホテルの名前を書いた紙を見せると、70元で行ってくれるという。それが高いのか安いのかはわからないが、オーケーということにして、乗る。運転手は町中から西湖に出て、湖沿いの道を果敢に飛ばしていく。大勢の観光客がそぞろに歩いている。体操服を着た高校生風の団体の姿も見える。療養所のような施設もあるらしい。保養地の雰囲気濃厚で、ガルダ湖のシルミオーネを思い出したりする。しばらくして、緑の多い丘の中にあるホテルに到着。英語がほとんど通じない、しかしなぜか日本語がわずかに通じるフロントでチェックインの後、ひろびろとした部屋に案内される。パソコンも設置されており、日本語入力はどうもできないようだが、ネットも使える。(グーグルは香港のサイトにつながるようになっている。)窓をあけて一服。

しばし休憩の後、夕食を兼ねて、西湖湖畔にあるレストラン「楼外楼」に繰り出す。人気店であるらしく、順番待ちだという。店内も観光客らしい客でいっぱい。学会関係者とおぼしき人たちもちらほら見える。英語は通じないので、もっぱら筆談で注文。分量まで細かいことは伝わらないので、魚も点心も予定以上の分量が来る。ワインもグラスでよかったのだが、ボトルで来る。中国産の白。まだまだといった感じか。時折、けたたましい着メロの音が響き渡る。メインの料理が絶品というわけではなかったが、東坡肉は堪能。店の雰囲気もよく、大きな窓から西湖がよく見える。食後、またタクシーに乗ってホテルまで。時差は1時間とはいえ、長い1日。O 先生とお別れして、部屋に戻り、泥のように寝る。