『ホーソーンの文学的遺産』

作業、成績提出、その他。作業後の昼、久しぶりに「山手カフェ」へ。

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ホーソーンの文学的遺産―ロマンスと歴史の変貌

ホーソーンの文学的遺産―ロマンスと歴史の変貌

ホーソーン没後150年を記念して、日本ホーソーン協会が編んだ論集。ホーソーンの文学的遺産がどのように継承され、また、どのような変容を迫られて現代にいたるまで長い影を投げかけているのかを再検討する本。まずは、メルヴィルの「林檎材のテーブル」についての論考と、ホーソーンの「痣」とオーウェルの『ビルマの日々』とを結ぶ意外な接点について論じた論考を拝読。前者で取り上げられた短編「林檎材のテーブル」は、これまで注意して読んでこなかったが、作品中の喜劇性についての詳細な分析、家庭小説のジャンルに照らし合わせての読解など、勉強になった。古いテーブルから虫が出てくる描写が、ソローの『ウォールデン』や、19世紀の他の書物にも出てくるということも、今回初めて知った。このモチーフに復活願望を見る解釈も面白い。

ホーソーンの「痣」とオーウェルの『ビルマの日々』についての論考も面白く読んだ。この意外な取り合わせが刺激的であることに加え、さらに、ミランダ・ジュライの作品との接点も指摘され、また、関連して、モリスンの『スーラ』への言及もあり、「痣」をモチーフにした作品の系譜としても読めると感じる。『スーラ』の場合のように、人種関係に鋭敏な作家からすれば、「痣」のモチーフは容易に人種的な読みの対象になりうるのだということも思った。痣とは異なるが、顔の傷も類比的に扱えるモチーフなのかもしれない。

最近は英文科の学生でもホーソーンをあまり読まないような印象があるが、まずは短編から読んでみることをおすすめしたい。(目次はここ。)