アメ文中部支部大会

あいにくの天気だが、手渡しおよび配布用の雑誌を入れた袋をぶら下げて会場へ。研究発表2件、総会、シンポジウム、特別講演というプログラム。午前の発表は、アーカイヴ調査に基づくフォークナーの映画脚本執筆(The Road to Glory)とその創作への影響についての考察するものと、E. L. Konigsburg の The Dragon in the Ghetto Caper ゲーテッド・コミュニティについてのもろもろの言説に関連づけて論じる考察。どちらも面白く拝聴。(研究発表、シンポともに後日内容の報告が出るはず。)The Road to Glory は未見であり、また見てみたいと思う。カニグズバーグもほとんど何も知らないので、これを機会に作品を読むとよいのだろうが、やはり代表作からか。(カニグズバーグという名前から Woody Allen を思い出すが、まさか親戚ということはないでしょうな。)

総会の後、昼は、連れだって近くのバンチャガールへ行くが、混んでいて、5人しか座れず。ピーマカレーのセットを賞味しつつ、それぞれの大学の事情について情報交換。昼食休憩が少し短いということもあるが、急いでカレーを食べたつもりだが、会場に戻るのが遅れ、午後のシンポの最初を聞きそびれる。このシンポは、ハーレム・ルネサンスの女性小説家の作品を論じるもので、Fauset、Hurston、West、Larsen それぞれの作品についての論考を興味深く聞く。あまり読まれているとは思われない作家・作品も扱われており、勉強になった。少ししどろもどろの質問をすることになったが、よく考えてみれば、ハーレム・ルネッサンスの作家を(例えば Lewis の本が行うように)ハイブラウとロウブラウの区分で論じることもできるはずだが、それをむしろジェンダーによって区分することによって見えてくるものは何なのかということをもう少し知りたいという質問をしたかったのだと思う。最初のイントロを聞き逃してしまったので、こちらがいけないのだが、同じ女性作家の中でも、例えばフォーセットやウェストとハーストンとではバックグラウンドも作風も異なるわけで、その相違とジェンダーというくくりとがどのような関係に置かれるのかに興味をひかれた。また、20世紀初頭のアメリカ主流社会におけるジェンダー規範が人種の境界を越えて反復されているのだとしたら、そこにおける同性愛への態度はどのようなものだったのか、といった点も気になる。ハーレム・ルネサンスの男性作家たちと比較した場合、その態度には差違が生じるのかなども含めて、もう少し聞いてみたいという気がした。いずれにしても、情報量の多いシンポで、たいへんためになった。

続く特別講演は、親学会の会長もお務めになった田中先生のお話。Hawthorne、Faulkner、Sinclair Lewis、Toshio Mori の小説を題材に、リージョナリズムについて再考するという内容。リージョナリズムに「地域主義」、セクショナリズムに「地方主義」、ローカリズムに「郷土主義」という訳語をあてられる田中先生は、文学において個人と社会の関係を語る際には、地縁、血縁、社縁だけでは不十分で、「時縁」すなわち時代の縁も必要であると言われる。(例えば、第1次大戦が背景にあるか否かで、読者と登場人物の対話のあり方が異なるだろう。)また、社会の最も人間くさい表情を見せるのは、その社会に飛び交っている噂、言い伝え、伝承の類であろうから、これらもまたそれぞれのリージョンを特徴づけていく要素であろうとおっしゃる。こうした観点から、また、小説に見出される対位法、もしくはバフチンの言う意味での対話の要素に注目しつつ、それぞれの作家の作品が論じられる。その内容はおそらくそのうちにまた活字にされるだろうと思われるのでそちらを参照していただくとして、拝聴していて特に印象に残ったのは、シンクレア・ルイスの再評価であった。とりわけ、Main Street におけるポリフォニックな要素の指摘など面白く伺った。また、トピックがそうさせたのかもしれないが、講演の随所で先生の出身地である広島の話があり、トシオ・モリの出身地が大竹市であるという話、田山花袋の『蒲団』のヒロインのモデルとされる岡田美千代も広島出身であるという話など興味深く伺った。リージョナリズムのテーマは実はパウンドにも関わるものだし、一方で、エリオットのヴァージニアでの講演とも関連づけて考えたくなるものであり、彼らの文学について考えるためにも有益なトピックだと思う。時折ジョークも交えられた軽妙な語り口でのご講演は、最近あまり聞く機会がなくなった良質の大学講義のように感じられ、1時間が短く思われた。

懇親会は今年も車道の「ミラベル」。昨年同様、マイクロバスに乗って、建中寺前の会場へ。やはり去年と同じく立食で、ゲストの先生方をまじえ、あれこれ四方山話に興じる。今日もドラゴンズがカープに勝った模様ですというような余計なことを話す内に、あっという間に2時間が過ぎ、散会。料理も店のサービスもよく、来年もここでと言う人もあり。2次会かなと思いながら料理を持ち帰るべく容器に詰めていると、皆さん素早くお帰りになったようで、結局、方角の近い3人だけとなる。近くには2次会のできる店はないと聞いたので、本山の「パラゴン」へ。珍しく空いていた。焼酎をすすりながら、英語教育の話などあれこれした後、今日はカラオケもなくタクシーに乗って帰宅。皆さん、お疲れさまでした。