Volver

ボルベール (ランダムハウス講談社文庫)

アルモドバルの Volver(邦題は『ボルベール<帰郷>』) を見に行く。名古屋では荒子川公園というところにある「TOHOシネマズ」という名のシネコンでしか上映しないため、名駅からあおなみ線という電車に初めて乗る。港に近づくに連れて、工場が目立つようになってくる。それはそれで、見ていて楽しい風景。

映画は予想に違わず面白いもの。久しぶりに劇場へ来たということとも関係しているのだろうが、見ていて幸福な気分になる。後半、謎の答えがあっさりと開示されてしまうので、もっと小出しにしてくれればいいのにと思うし(そのあたり、1974年のハリウッド映画のほうが手が込んでいるし、衝撃的だった)、エンディングにも疑問符がつくが、色彩豊かな映像は魅力的だし、テンポもいい。墓の掃除、田舎の葬式といった見慣れぬシーンも興味深いし、音楽も悪くない。役者たちも実に魅力的で、*1とりわけ Penelope Cruz は見ていて飽きない。というか、この映画は Penelope Cruz のための映画と言ったほうがいいだろう。ストーリーはともかく、彼女が出るなら見に行きたい、と思わせるような魅力(というか風格というか)を感じさせる。アルモドバルは作品中で歌を使うのが上手な監督だと思うが、この映画も例外ではなく、レストランでの歌のシーンは実によい。物語上のクライマックスとは言いがたいのだが、ぐっとくるところ。

男は殺しても罰せられることがなく、全編ほとんど女しか出てこない映画。忌まわしき男は抹殺され、残された女たちだけで生きていこうという世界だが、併せて、生きているうちに墓を買うとか、看病・介護といった筋も明確。考えさせられる。

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図版は本のもの。

*1:髪が短いせいか Gerturde Stein を思わせずにはいられない Agustina 役の Blanca Portillo、姉 Sole 役の Lola Duenas(室井滋に似てたりする)も好演。姉妹の顔が違うのにも意味があるのだろうな。